生成AIのハルシネーションとは?発生しやすい状況や防ぐための対策

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生成AIが私たちの生活に浸透する中で、思わぬ落とし穴が存在します。それが「ハルシネーション」と呼ばれる現象です。AIが自信満々に答えた内容が、実は完全な作り話だったという経験はありませんか?

この記事では、生成AIの「ハルシネーション」について詳しく解説します。なぜAIがもっともらしい嘘をつくのか、どのような場面で起こりやすいのか、そして私たち利用者がどう対処すべきかを具体的に紹介します。

AIを使いこなすためには、その特性を理解することが大切です。ハルシネーションの仕組みを知れば、AIをより効果的に、そして安全に活用できるようになります。

目次

生成AIのハルシネーションって何?

「ハルシネーション」という言葉、聞き慣れないかもしれません。英語の「hallucination(幻覚・幻影)」に由来するこの言葉は、生成AIの世界では特別な意味を持っています。

ハルシネーションの基本的な意味

ハルシネーションとは、AIが事実に基づかない虚偽の情報をもっともらしく生成してしまう現象のことです。本来「幻覚」を意味する言葉ですが、AIが幻覚を見ているかのように「もっともらしい嘘」を出力するため、このように呼ばれています。

例えば、実在しない映画について質問すると、AIはその映画が存在するかのように公開年や監督、キャスト、あらすじまで詳細に答えることがあります。これがハルシネーションです。AIは自分が知らないことでも、知っているかのように答えてしまうのです。

なぜ「幻覚」と呼ばれるのか

AIが「幻覚を見ている」という表現は、人間の幻覚体験になぞらえたものです。人間が幻覚を見るとき、実際には存在しないものを実在すると思い込みます。同様に、AIも存在しない情報をあたかも存在するかのように出力します。

この現象は、AIが学習データの中から関連性の高い文章や単語の出現確率をモデル化し、それに基づいて回答を生成するという仕組みに起因しています。AIは正誤の判断能力を持たないため、もっともらしい文章を生成することはできても、その内容が事実かどうかを判断することはできないのです。

日常生活での具体例

私たちの日常生活でも、ハルシネーションに遭遇する機会は増えています。例えば、次のような場面で起こりがちです。

レポート作成のためにAIに歴史的事実を尋ねたところ、実際には起きていない出来事や存在しない人物について詳細な説明を受けた。

料理レシピを聞いたら、実際には組み合わせが不自然な材料や調理法を含む回答が返ってきた。

有名人の最新情報を質問したら、実際には起きていないスキャンダルや業績について具体的に答えられた。

これらはすべて、AIが自信を持って答えるため、真実と見分けるのが難しいケースです。

ハルシネーションが起きる仕組み

なぜAIはこのような「嘘」をつくのでしょうか。実は、これはAIの設計上の特性から生じる現象なのです。

AIの文章生成の仕組みと関係性

生成AIは、膨大なデータと高度なディープラーニング技術で構築された「LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)」を利用して処理を行っています。

LLMは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習し、ある言葉に続く可能性の高い言葉を予測する能力を身につけます。つまり、「この言葉の次には、どんな言葉が来るのが自然か」を確率的に判断しているのです。

この仕組みは、流暢で自然な文章を生成するのに適していますが、同時にハルシネーションの原因にもなります。AIは文章の流れや文脈の自然さを重視するあまり、事実確認よりも「もっともらしさ」を優先してしまうことがあるのです。

確率モデルによる予測の限界

生成AIは確率モデルに基づいて動作しています。つまり、「この質問にはこう答えるのが最も確率が高い」という予測に基づいて回答を生成しているのです。

しかし、この確率的な予測には限界があります。AIは自分の知識の境界を認識できず、知らないことについても確率モデルに基づいて「もっともらしい」回答を生成してしまいます。

例えば、「2050年の日本の人口は?」という質問に対して、AIは未来のことで確実な答えがないにもかかわらず、過去のデータから推測した具体的な数字を答えることがあります。これは、「わからない」と答えるよりも具体的な数字を示す方が、AIの学習パターンとして「良い回答」だと判断されるためです。

学習データの影響

ハルシネーションのもう一つの大きな原因は、学習データの質と量に関係しています。AIは学習したデータの中からしか知識を得られません。そして、インターネット上には誤った情報も多く存在します。

AIがこうした誤情報を学習してしまうと、それを基に回答を生成するため、誤った情報が拡散されることになります。また、学習データに含まれていない最新の情報や専門的すぎる情報については、AIは知識を持ち合わせていないため、既存の知識を組み合わせて「推測」することになります。

この推測プロセスがハルシネーションを引き起こす大きな要因となっているのです。

ハルシネーションの種類

ハルシネーションには、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解することで、より効果的に対処することができるでしょう。

内在的ハルシネーション(学習データと異なる回答)

内在的ハルシネーションとは、AIが学習データに含まれている情報と矛盾する回答を生成してしまうケースです。

例えば、AIが「東京タワーの高さは333メートルです」と学習しているにもかかわらず、質問に対して「東京タワーの高さは350メートルです」と答えてしまうような場合です。

これは、AIが複数の情報源から学習する過程で、情報の整合性を完全に保つことができないために起こります。また、文脈によって異なる回答を生成しようとする際に、事実と異なる情報を出力してしまうこともあります。

外在的ハルシネーション(存在しない情報の創作)

外在的ハルシネーションは、より深刻な問題です。これは、AIが学習データに存在しない情報を完全に創作してしまうケースを指します。

例えば、実在しない科学者の経歴や架空の理論について、あたかも実在するかのように詳細に説明するようなケースです。2022年にスイスのデータサイエンティストがChatGPTに「a cycloidal inverted electromagnon」という架空の専門用語について質問したところ、ChatGPTは参照文献まで提示して詳細に回答しました。しかし、調査の結果、その回答はすべて創作されたものだったことが判明しています。

このような外在的ハルシネーションは、AIが文脈から推測して回答を生成する性質が強く表れた結果です。

実際の例で見る違い

内在的ハルシネーションと外在的ハルシネーションの違いを、具体例で見てみましょう。

ハルシネーションの種類具体例特徴
内在的ハルシネーション「富士山の高さは3,776mです」という事実に対して「富士山の高さは約3,800mです」と回答実際の事実と近いが細部が異なる
外在的ハルシネーション「サイバー量子力学の創始者は誰ですか?」という質問に対して、存在しない学者の名前と経歴を詳細に説明完全な創作で、事実との接点がほとんどない

内在的ハルシネーションは事実との差異が小さいため見分けにくい一方、外在的ハルシネーションは完全な創作であるため、専門知識があれば見破りやすい場合もあります。しかし、専門外の話題では、どちらも見分けるのが難しいことが多いのが現実です。

ハルシネーションが発生しやすい状況

ハルシネーションはどのような状況で発生しやすいのでしょうか。特に注意すべきパターンを見ていきましょう。

曖昧な質問をしたとき

質問が曖昧であればあるほど、AIは自分なりの解釈で回答を生成することになります。そのため、ハルシネーションのリスクが高まります。

例えば、「最近の技術トレンドについて教えて」という漠然とした質問よりも、「2024年4月時点での日本のAI技術の主要トレンド3つを教えて」というように具体的に質問する方が、より正確な回答を得られる可能性が高くなります。

曖昧さを減らし、具体的な質問をすることで、AIが推測に頼る余地を減らすことができます。

誘導的な質問をしたとき

質問自体に誤った前提や誘導的な要素が含まれていると、AIはその前提に沿った回答を生成しようとします。

例えば、「ナポレオンが南米を征服した際の戦略について教えて」という質問には、「ナポレオンが南米を征服した」という誤った前提が含まれています。AIは、この前提が間違っていることを指摘せずに、架空の征服戦略について詳細に説明してしまうことがあります。

このような誘導的な質問は、意図的でなくても、AIにハルシネーションを引き起こす原因となります。

最新情報を求めたとき

AIの学習データには時間的な制限があります。例えば、ChatGPTのGPT-4は2023年4月までの情報で学習を終えています(2025年4月現在)。そのため、それ以降の出来事については知識がなく、推測に頼らざるを得ません。

「2024年の東京オリンピックの結果は?」というような質問(実際には2021年に開催された)に対して、AIは自信を持って架空の結果を答えることがあります。最新の情報や未来の出来事については、AIの回答を鵜呑みにせず、必ず他の情報源で確認することが重要です。

専門的すぎる質問をしたとき

非常に専門的な分野や、一般的な文献にあまり登場しない話題については、AIの知識が限られています。そのような場合、AIは持っている断片的な知識を組み合わせて回答を生成しようとするため、ハルシネーションが発生しやすくなります。

例えば、マイナーな学術分野の専門用語について質問すると、AIは関連する一般的な知識を基に推測した回答を生成することがあります。このような専門的な質問については、専門家や信頼できる情報源に確認することが望ましいでしょう。

実際のハルシネーション事例

ハルシネーションは理論上の問題ではなく、実際に多くの場面で発生しています。いくつかの具体的な事例を見てみましょう。

テキスト生成での事例

テキスト生成は、ハルシネーションが最も顕著に現れる領域の一つです。

2022年にChatGPTがリリースされた直後、多くのユーザーが架空の専門用語や存在しない概念について質問し、AIが詳細な解説を返すという現象が報告されました。

例えば、あるユーザーが「モーツァルトとベートーベンの共同作曲作品について教えて」と質問したところ、ChatGPTは実際には存在しない共同作品について、作曲年や楽章構成まで詳細に説明したという事例があります。モーツァルトは1791年に亡くなり、ベートーベンが本格的な作曲活動を始めたのはその後であるため、二人の共同作品は存在しません。

また、法律や医療分野での誤った情報提供も問題となっています。AIが存在しない法律や判例、医学的処置について説明することで、ユーザーが誤った判断をしてしまうリスクがあります。

画像生成での事例

画像生成AIにおいても、ハルシネーションは発生します。ただし、その形態は少し異なります。

例えば、「6本指の人間の手」や「3つのタワーがある東京タワー」のような、現実には存在しない画像を生成することがあります。これは、AIが「手」や「東京タワー」の概念を理解しているものの、細部の正確さについては完全に把握できていないことを示しています。

また、有名人の顔を組み合わせた架空の人物や、存在しない建物、風景なども生成されます。これらは技術的には優れた画像であっても、現実を正確に反映していないという点で、ハルシネーションの一種と言えるでしょう。

有名なハルシネーション失敗例

大企業のAIサービスでも、ハルシネーションによる失敗事例が報告されています。

2022年11月、Metaが公開した科学技術分野の大規模言語モデル「Galactica」は、実在しない科学者の経歴や虚構の理論名を生成するハルシネーションが多発しました。批判が相次ぎ、公開からわずか3ヶ月で運用停止に追い込まれています。

また、2023年にGoogleがリリースした会話型AIサービス「Bard」(現在のGemini)も、発表会でのデモンストレーション中にハルシネーションを起こし、誤った情報を提供したことで話題になりました。この出来事はGoogleの株価にも影響を与えたとされています。

これらの事例は、最先端のAI技術を持つ大企業でさえ、ハルシネーションの問題を完全には解決できていないことを示しています。

ハルシネーションを防ぐための対策

ハルシネーションを完全に防ぐことは難しいですが、いくつかの対策を講じることで、そのリスクを大幅に低減することができます。

具体的な質問の仕方

質問の仕方を工夫することで、ハルシネーションのリスクを減らすことができます。

具体的には、質問をできるだけ明確かつ具体的にすることが重要です。曖昧さを排除し、AIが推測に頼る余地を減らしましょう。

例えば、「AIについて教えて」という漠然とした質問ではなく、「2025年4月時点での生成AIの主要な技術的課題を3つ挙げて、それぞれ100字程度で説明してください」というように具体的に質問することで、より正確な回答を得られる可能性が高まります。

また、AIに対して「わからない場合は、わからないと正直に答えてください」と指示することも効果的です。これにより、AIは不確かな情報について推測で答えるのではなく、知識の限界を認めるようになります。

複数の情報源で確認する習慣

AIの回答を鵜呑みにせず、常に他の情報源で確認する習慣をつけることが重要です。特に重要な決断や専門的な情報については、複数の信頼できる情報源で検証することをお勧めします。

例えば、AIから得た医療情報は、必ず医師や公的な医療機関のウェブサイトで確認しましょう。同様に、法律や金融に関する情報も、専門家や公式の情報源で裏付けを取ることが大切です。

インターネット検索、専門書、専門家への相談など、複数の方法で情報を確認することで、ハルシネーションによる誤った情報に惑わされるリスクを減らすことができます。

プロンプトの工夫テクニック

AIに対する指示(プロンプト)を工夫することで、ハルシネーションのリスクを低減できます。以下に、効果的なプロンプトの例を紹介します。

この質問に答える際は、確信が持てない情報については「わかりません」または「確認が必要です」と回答してください。2028年の日本の生成AI市場規模について教えてください。

このようなプロンプトを使うことで、AIは確実な情報のみを提供し、不確かな情報の生成を避けるようになります。

また、同じプロンプトで複数回実行し、結果を比較する方法も効果的です。複数の結果で共通して現れる情報は信頼性が高い可能性がありますが、結果が異なる部分については特に注意が必要です。

情報の真偽を確認する方法

AIから得た情報の真偽を確認するためのテクニックもいくつかあります。

まず、情報の出典や根拠を尋ねることが重要です。「その情報の出典は何ですか?」「具体的な研究や統計データはありますか?」といった質問をすることで、AIが情報の根拠を示せるかどうかを確認できます。

また、反対の立場からの意見や批判的な視点も尋ねてみることで、情報の偏りやハルシネーションを見抜くヒントが得られることがあります。「その見解に対する批判はありますか?」「異なる意見を持つ専門家はいますか?」といった質問が有効です。

さらに、極端に詳細すぎる情報や、あまりにも完璧な話には疑いの目を向けることも大切です。現実の情報には通常、不確かさや例外が含まれるものです。

生成AIを賢く使うコツ

ハルシネーションの存在を理解した上で、生成AIを効果的に活用するためのコツを紹介します。

ハルシネーションを前提に使う心構え

生成AIを使う際は、ハルシネーションが起こり得ることを常に念頭に置くことが重要です。AIは完璧ではなく、時に誤った情報を提供することがあるという前提で利用しましょう。

特に、AIの回答に不自然な確信や詳細さを感じたら、それはハルシネーションの可能性があるサインかもしれません。健全な懐疑心を持ち、「これは本当に正しいのだろうか?」と自問する習慣をつけることが大切です。

また、AIを最終的な情報源としてではなく、アイデアの出発点や補助ツールとしてではなく、アイデアの出発点や補助ツールとして活用することが大切です。AIが提供する情報は、人間の判断や専門知識を補完するものであり、それに完全に依存するのではなく、批判的に評価する姿勢を持ちましょう。

例えば、レポートや論文を書く際には、AIを使ってアイデアを整理したり、文章の構成を考えたりする補助として活用し、最終的な内容は自分で確認して責任を持つという使い方が望ましいです。

情報の裏付けをとる習慣

AIから得た情報は、可能な限り他の信頼できる情報源で裏付けを取る習慣をつけましょう。特に重要な決断や専門的な情報については、複数の情報源で検証することが不可欠です。

インターネット検索、専門書籍、専門家への相談など、複数の方法で情報を確認することで、ハルシネーションによる誤った情報に惑わされるリスクを減らすことができます。特に数字や固有名詞、歴史的事実などは必ず確認するようにしましょう。

また、AIの回答に違和感を覚えたり、あまりにも完璧すぎる回答を得た場合は、特に注意深く検証することをお勧めします。現実の情報には通常、不確かさや例外が含まれるものです。

批判的思考の大切さ

生成AIを使う際に最も重要なのは、批判的思考を持つことです。批判的思考とは、情報を鵜呑みにせず、その信頼性や妥当性を評価する能力のことです。

AIの回答を受け取ったら、以下のような問いかけをしてみましょう。

「この情報は論理的に筋が通っているか?」
「他の知識や情報源と矛盾していないか?」
「この回答にはバイアスや偏りがないか?」
「AIがこの質問に正確に答えられる可能性はどの程度か?」

このような批判的思考を持つことで、ハルシネーションに惑わされるリスクを大幅に減らすことができます。

また、AIに対して「なぜそう考えるのか?」「その情報の出典は?」と掘り下げて質問することも有効です。AIが自信を持って答えられない場合や、矛盾した説明をする場合は、ハルシネーションの可能性を疑うべきでしょう。

まとめ:ハルシネーションと上手に付き合うには

生成AIのハルシネーションは、AIの仕組み上、完全になくすことは難しい現象です。しかし、その特性を理解し、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。

具体的な質問をする、複数の情報源で確認する、プロンプトを工夫する、批判的思考を持つなど、いくつかの基本的な対策を実践することで、生成AIをより安全かつ効果的に活用することができるでしょう。

ハルシネーションはAIの欠点ではありますが、それを理解した上で適切に付き合うことで、AIの創造性や柔軟性といった利点を最大限に活かすことができます。AIを万能の道具ではなく、私たちの思考や創造性を補完する優れたパートナーとして活用していきましょう。

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