AIで音楽を作れる時代になりました。でも、そうやって作った曲の著作権はどうなるのでしょう?誰のものになるの?商用利用はできるの?
こんな疑問を持っている人は多いはず。AIが作った音楽の著作権問題は、まだグレーな部分が多く、音楽制作をする人にとって気になるポイントです。
この記事では、AIで作成した音楽の著作権について、現状の法律や注意点を分かりやすく解説します。AIツールを使って音楽を作りたい方、すでに作っている方の疑問にお答えします。
AIが作った音楽に著作権はあるの?
AIが作った音楽に著作権があるのかどうか。これは多くの人が気になる問題です。結論から言うと、現時点では「AIのみで作成した音楽には著作権が認められていない」というのが一般的な解釈です。
現在の著作権法での扱い
2025年現在の著作権法では、著作物は「人間の創造的な表現」であることが前提とされています。つまり、人間の創造性が関わっていない作品は、著作権法の保護対象外となるのです。
AIが完全に自動で生成した音楽は、人間の創造性が直接関わっていないため、著作権法上の「著作物」とは認められていません。これは日本だけでなく、多くの国で同様の解釈がなされています。
例えば、AIに「ポップな曲を作って」と指示して生成された楽曲は、そのままでは著作権法の保護対象にはならないのです。
人間が関わった場合の著作権
一方で、人間がAIを「道具」として使い、創作過程に深く関わった場合は異なります。人間の創造性が十分に反映されていれば、著作権が認められる可能性があります。
例えば、AIが生成した素材をもとに、人間が編集やアレンジを加えた場合、その編集やアレンジの部分に人間の創造性が発揮されていれば、著作権が認められることがあります。
具体的には、AIが生成したメロディーラインに対して、人間が和音を付け加えたり、リズムパターンを変更したり、楽器編成を工夫したりした場合、その加えた部分に著作権が発生する可能性があります。
ただし、どの程度の編集やアレンジが「創造的」と認められるかについては、明確な基準がなく、ケースバイケースで判断されることになります。
AIと人間の音楽制作における線引き
AIと人間の音楽制作における線引きは、著作権の観点から非常に重要です。どこまでが人間の創作で、どこからがAIの生成なのか、その境界線を理解することが大切です。
著作権が認められるケース
人間がAIの出力を編集した場合、著作権が認められる可能性があります。例えば、AIが生成したメロディーに対して、人間が歌詞を書き、編曲を行い、ミキシングやマスタリングを施した場合、その人間の創作的な貢献部分には著作権が認められるでしょう。
また、AIを使用する前の段階で、人間が詳細なプロンプト(指示)を工夫し、何度も試行錯誤を重ねて理想の音楽を生み出す過程があれば、そこにも創作性が認められる可能性があります。
例えば「80年代風のシンセポップで、メランコリックな雰囲気の曲を作って、ブリッジ部分はマイナーコードを使って、テンポは120BPMで」といった具体的な指示を出すことで、AIの出力に人間の創造性が反映されたと主張できるかもしれません。
ただし、この点はまだ法的に確立された見解ではなく、今後の判例や法改正によって変わる可能性があります。
著作権が認められないケース
一方、AIが自動生成したままの楽曲には、著作権が認められないケースが多いです。例えば、「ポップな曲を作って」といった簡単な指示だけでAIが生成した音楽は、人間の創作的関与が少ないため、著作権法の保護対象外となる可能性が高いです。
また、AIが生成した楽曲をそのまま使用する場合も、著作権が認められない可能性が高いです。例えば、AIが生成した楽曲をダウンロードして、何も編集せずにそのまま使用する場合は、人間の創作的関与がないため、著作権法の保護対象外となります。
このように、AIと人間の音楽制作における線引きは、人間の創作的関与の度合いによって決まります。人間の創作的関与が大きければ大きいほど、著作権が認められる可能性が高くなるのです。
AIで作った音楽を商用利用する際の注意点
AIで作った音楽を商用利用する場合、いくつかの重要な注意点があります。特に各AIサービスの利用規約と権利侵害のリスクについて理解しておくことが大切です。
各AIサービスの利用規約を確認
AIで音楽を作る際には、使用するAIサービスの利用規約をしっかり確認することが重要です。各サービスによって、商用利用の可否や条件が異なります。
例えば、Suno AIでは、商用利用には有料プランへの加入が必須となっています。無料プランで作成した楽曲は、個人利用や非営利目的に限定されており、商用利用は一切認められていません。
Suno AIの料金プランは以下のようになっています:
プラン | 料金(月額) | 商用利用 |
---|---|---|
Basic Plan | 無料 | 非商用のみ |
Pro Plan | $10 | 商用利用可 |
Premier Plan | $30 | 商用利用可 |
無料プランで過去に生成した楽曲は、後から有料プランに加入しても商用利用できないため注意が必要です。必ず商用利用を前提とする場合は、最初から有料プランで作成するようにしましょう。
また、有料プランに加入したとしても、生成した楽曲の権利関係は各サービスによって異なります。例えば、一部のサービスでは、生成した楽曲の著作権はユーザー自身に帰属すると明記されていますが、別のサービスでは、サービス提供者との共同著作権となる場合もあります。
このように、AIサービスごとに利用規約が異なるため、商用利用を考えている場合は、事前に利用規約をしっかりと確認することが重要です。
権利侵害のリスク
AIで作った音楽を使用する際には、既存楽曲との類似性による権利侵害のリスクも考慮する必要があります。AIは学習データに基づいて音楽を生成するため、既存の著作物に似た楽曲を生成してしまう可能性があります。
例えば、AIが有名なヒット曲に似たメロディーやコード進行を生成した場合、それを商用利用すると著作権侵害として訴えられるリスクがあります。
このリスクを回避するためには、AIが生成した楽曲を人間がしっかりとチェックし、既存の楽曲と明らかに類似している部分がないか確認することが重要です。特に、メロディーラインやコード進行、リズムパターンなどの特徴的な要素については、慎重にチェックする必要があります。
また、AIの学習に使用されたデータについても確認することが望ましいです。一部のAIサービスでは、学習データに関する情報を公開しているため、そのサービスが著作権侵害のリスクを低減するための対策を講じているかどうかを確認することができます。
万が一、権利侵害の疑いがある場合は、専門家に相談するか、別の楽曲を使用することを検討しましょう。
音楽業界とAIの今後
音楽業界におけるAIの活用は、今後ますます広がっていくことが予想されます。そんな中、業界団体や国際的な動向を理解しておくことは重要です。
JASRACの見解
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、AIによる音楽作成について重要な見解を示しています。JASRACは、AIの開発と利用が創造のサイクルと調和が取れていれば、クリエイターにとっても文化の発展にとっても有益であるとの立場を示しています。
しかし同時に、以下のような懸念も表明しています:
- クリエイターが適切な報酬を得ることなく、その著作物が商業的に利用される可能性
- AIがクリエイターよりも早く低コストで生成物を出力することで、クリエイターの生計を害する可能性
- 既存の著作物の著作権を侵害する生成物の出力につながる可能性
これらの懸念に対して、JASRACは以下のような対策を提案しています:
- 学習の局面における権利者の選択の機会の確保
- 何を学習したかについての透明性の確保
- 依拠性に関する立証負担の軽減
- 著作物でない生成物について著作者を詐称した者に対する罰則
JASRACの見解は、AIと音楽業界の共存を目指す上で重要な指針となるでしょう。
国際的な動向
AIによる音楽作成は国際的にも注目されており、各国で法整備が進められています。特に著作権に関する国際的な調和が求められています。
例えば、G7広島首脳コミュニケでは「責任あるAIの推進」や「透明性の促進」などが掲げられ、多国間での協力と調和の重要性が強調されています。
また、アメリカでは生成AIを巡って俳優業界を中心に大規模なストライキが起こるなど、AIがクリエイティブ産業に与える影響について議論が活発化しています。
こうした国際的な動向は、日本の音楽業界にも影響を与えることが予想されます。今後、国際的な基準や規制が整備されていく中で、日本の音楽業界もそれに合わせた対応が求められるでしょう。
クリエイターの意見も重要視されており、国内外のクリエイターの声を丁寧に聴き、その懸念の解消を図ることが大切だとされています。AIと人間の共存を目指す上で、クリエイターの視点を取り入れることは不可欠です。
AIで音楽を作る際のチェックポイント
AIで音楽を作る際には、いくつかの重要なチェックポイントがあります。これらを確認することで、法的なリスクを回避し、安心して音楽制作を行うことができます。
チェック項目 | 確認すべきポイント |
---|---|
利用規約 | AIサービスの権利関係や商用利用の可否 |
既存楽曲との類似性 | 著作権侵害のリスクがないか |
人間の関与度 | 編集やアレンジの度合い |
最新の法律 | 新たに施行された法律の確認 |
モデルの学習データ | 既存楽曲が使用されている記載の有無 |
まず、利用規約の確認は最も基本的なチェックポイントです。各AIサービスによって商用利用の条件や権利関係が異なるため、自分の用途に合ったサービスを選ぶことが重要です。
次に、AIが生成した楽曲が既存の楽曲と類似していないかをチェックすることも大切です。特にメロディーラインやコード進行などの特徴的な部分が、有名な楽曲と似ていないかを確認しましょう。
また、人間の関与度も重要なポイントです。AIが生成した楽曲にどの程度編集やアレンジを加えたかによって、著作権の帰属が変わる可能性があります。人間の創造性が十分に反映されるよう、積極的に編集やアレンジを行うことで、著作権が認められる可能性が高まります。
最新の法律についても常にアップデートしておくことが大切です。AI技術の進化に伴い、法律も変わる可能性があるため、定期的に最新の情報をチェックしましょう。
最後に、AIモデルの学習データについても確認することをおすすめします。一部のAIサービスでは、学習データに関する情報を公開しているため、そのサービスが著作権侵害のリスクを低減するための対策を講じているかどうかを確認することができます。
これらのチェックポイントを押さえておくことで、AIで音楽を作る際のリスクを最小限に抑えることができます。
AIと音楽の未来
AIと音楽の未来は、創造性の新たな可能性と課題が共存する世界です。AIが音楽制作にもたらす変革と、それに伴う課題について考えてみましょう。
創造性の新たな可能性
AIを活用した音楽制作は、これまでにない創造的な可能性を広げています。専門的な音楽知識がなくても、誰でも簡単に高品質な楽曲を作れるようになったことで、音楽制作の敷居が大きく下がりました。
例えば、メロディーやコード進行に悩んでいた作曲家が、AIが提案するアイデアをヒントに新しい楽曲を生み出すことができます。また、自分では思いつかなかったような斬新なアレンジや音色の組み合わせを、AIが提案してくれることもあります。
さらに、AIは異なるジャンルの融合や、これまでにない音楽表現の実験を促進する役割も果たしています。例えば、クラシックとヒップホップを融合させたり、民族音楽とエレクトロニックミュージックを組み合わせたりするなど、新しい音楽スタイルの創出に貢献しています。
このように、AIは音楽制作における新たな道具として、クリエイターの創造性を拡張し、音楽表現の幅を広げる可能性を秘めています。
課題と展望
一方で、AIと音楽の未来には様々な課題も存在します。まず、著作権法の見直しの必要性が挙げられます。現行の著作権法はAIによる創作を想定していないため、AIが生成した音楽の著作権をどう扱うかについて、法的な枠組みの整備が求められています。
また、AIの普及によって音楽市場が飽和状態になるという懸念もあります。誰でも簡単に音楽を作れるようになると、市場には大量の音楽が溢れ、特に新規参入者や独立したアーティストにとっては厳しい環境になる可能性があります。
さらに、音楽制作のクリエイティブな側面が単純化される恐れもあります。音楽の制作過程における個人の感情や経験、創造性の重要性が低下し、結果として音楽の深みや独自性が失われる可能性も指摘されています。
これらの課題に対応しながら、AIと人間のクリエイターが共存できる環境を整えることが、音楽業界の持続可能な発展につながるでしょう。
AIは音楽の未来を脅かす「敵」でも、すべてを解決する「救世主」でもありません。それは単なるツールであり、それをどう使うかは私たち人間次第です。音楽の本質である「人間の感情表現」を大切にしながら、AIがもたらす新しい可能性を探求することで、音楽はさらに豊かで多様なものになっていくでしょう。
まとめ:AIで音楽を作る時代の著作権との付き合い方
AIで作った音楽の著作権は、現状ではグレーな部分が多いものの、基本的にはAIのみで作成した音楽には著作権が認められていません。人間の創造的な関与が重要であり、AIを道具として使いながら、自分らしい編集やアレンジを加えることが大切です。商用利用する際は、各AIサービスの利用規約を必ず確認し、権利侵害のリスクに注意しましょう。AIと音楽の未来は、創造性の新たな可能性と課題が共存する世界です。著作権法の見直しなど課題はありますが、AIと人間が協力することで、音楽文化はさらに豊かに発展していくでしょう。

